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超長期未済事件の実態

 1 時の総理大臣が「思い出の事件を裁く・・」

 時の総理大臣が「思い出の事件を裁く裁判所」などという川柳を持ち出して最高裁長官をからかいでもしたら,第一線の裁判官はもう大変です。
 まず,統計を利用したハッパかけ法を考案します。すなわち,審理期間についての統計です。
○○高裁管内平均審理期間1.58年,××高裁管内1.31年等々。「××高裁頑張ってるじゃないか」。
○○高裁管内□□地裁の平均審理期間1.76年,△△地裁1.22年等々。「△△地裁頑張ってるじゃないか」。
□□地裁第○民事部○×裁判官の平均審理期間1.88年,△□裁判官1.55年。「△□裁判官頑張ってるじゃないか」。
 などという会話が,暗黙の内に交わされたことでしょう。

 ただ,1年365日ですから,0.01年は,3.65日,すなわち,せいぜい4日,0.1年は36.5日,一か月ちょいです。国民・市民の皆様が,「今度の裁判官は,前の裁判官より0.2年早かったよ,ありがたいな」などと果たしてお考えか,私は当時から疑問に思っていました。重要なのは,もちろん,判決の,むしろ中身でしょう。
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 2 国民の方々には無関係か

 このような統計方法の設定は,一面,裁判所内部の事務手続きに過ぎませんが,末尾に記載するように,裁判が救済を求める国民・市民の方々の権利・義務にダイレクトに関係する事柄である以上,単なる統計方法の設定・試みに過ぎないなどとして,軽く考え,最高裁判所にもてあそばせてはならないだろうと思います。
 しかるべき機関,たとえば,衆参両院の法務委員会等で,いかなる目的で統計を試み・設定しようというのか,その目的に正当性があるのか,その目的からして,相当な統計なのか,その統計をとることの影響をどの程度と考えているのか,きちんとチェックし,裁判部内高官らの戯れ事の類は止めさせなければなりません。 
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 3 超長期未済事件の実態

 こういう方法で,長官は高裁長官に,高裁長官は裁判所所長にはっぱをかけ,裁判所所長は部総括裁判官にはっぱをかけるとともに,的確な処遇のために新設された「所長面接」の機会を濫用・悪用して,裁判官を怒鳴りつけます。 

 もっとも,裁判官は早い人は2年,繁忙支部など転勤希望者が少ないところでも4年で代わります。したがって,平均審理期間の長短は,もちろん,前任,更に前々任の裁判官がどれくらいまじめに処理してくれていたかがもろに影響します。
 私の場合,前任者,前々任者の置き土産がありました。訴提起から7年以上経過した超長期未済事件です。7年=84か月以上物があると,新しい事件を片付けても片付けても平均審理期間の短縮には限界があります。
 そこで,7年以上物処理に重点を置くようにしました。

 しかし,前々任者に始まり,前任者も本腰を入れない(※)まま7年もの年月が経過した事件記録は,もちろん,数冊に及ぶ厚みもありましたが,それよりなにより,「B5版→A4版」の大型化,「縦書き→横書き」化,及びこれに伴う,「右穴右綴じ→左穴左綴じ」という激変を挟んだ時期に作成されており,非常に閲読が面倒・困難な化け物のような記録と化していました。
※ 建物一部の明け渡し訴訟で,目的部分(訴訟物)が特定できていないことから,一目瞭然でした。訴訟物特定は訴訟要件で,不特定なら棄却でなく却下です。訴却下の事案が7年間以上も放置されているのは,歴代の裁判官が本腰をいれていなかったことを雄弁に物語っています。

 つまり,あるところまでは,右から左に縦書きB5版の書面が綴られている。それ以後は,何通もの横書きA4版左穴左綴じの書面が,逆向き(右方に末頁,先頭頁は左方)に綴られている。したがって,A4版の書面を読むには,まず,その先頭頁がどこにあるかを頁をめくって探さなければなりません。証拠も同じ。あるところまでは右から左,あるところからは,全部逆向きで,めくるとまずお尻が出てくる。

 もう少し分かり易く書きます。
 片手で持てるかという程度の厚さですから,普通の本だと,全1000頁位,記録ですから,頁数はもう少し少ない,七,八百頁位の本を考えて下さい。ただし,普通の本ではありません。始めから100頁までは,B5版の大きさで縦書き右綴じ,101頁目に相当するところからは,A4版で横書き左綴じです。
 そして,横書き左綴じですから,101頁目に相当するところを開くと,頁の数は「101」ではなく,例えば「115」などとなっています。したがって,頁をめくって,100頁の次の101頁がどこにあるかを探さなければなりません。101頁を探して115頁までを読む。その先を読むためには,頁数が「101」のところに戻り,更に,頁をめくって,115頁の次の116頁がどこにあるかを探す,その次は・・・,そのような作業を繰り返すのです。
 何回繰り返したでしょうか。
 私が担当するまでに84か月以上。普通,1か月に1回は口頭弁論期日を入れます。1回の期日に最低1通,普通は,原・被告双方から各1通,合計2通は準備書面が出て来ます。84×2=168。少し多過ぎますか。百数十回でしょうか。
 普通の本なら当然「乱丁」,無料で取り替えてくれるような状況です。
 しかも,記録の場合,準備書面ですから,頁数の付されていない場合も少なくありません。「お前の頭はどこにある」と先頭頁を探し当てながら,探し当てながら読み進みますが,次第にイライラ感が募ります。
読みにくい記録は,読みにくいから読みたくない,読みたくないから読まない,すなわち,処理が後回しになります。時間だけが徒過し,7年が経った。ある意味,あたりまえのことです。

 何とか簡単に読めるように出来ないかと考えていたところ,簡単なことに気づきました。A4版左穴左綴じの書面も,右穴右綴じにするだけで,頁中央部上の契印はそのまま,逆向きでなく,右を頭にして綴れます。

 激変時,担当裁判官が,せめて「この事件の書面は異例ですが,右綴じにしてください」と当事者代理人に言えば良かったのです。更に言えば,最高が,そういう綴じ方を例外的に認めるような通知を出しておかなければならなかったのです。
 私は,私の責任で(※※),各通のホチキス・マックスの針を1通づつ外しては右端に穴を開け,右端を再度綴じるなどして先頭頁が全部右にあるように統一してしまいました。

※※私の責任で綴り直すという趣旨を書いて,記録の表紙に付けました。裁判所では,現場の書記官がお達しの通り仕事をしているかを監督する査閲という制度があり,少しでも変わったことをしていると,注意・指摘がなされます。一方,査閲での注意・指摘を回避しようとの動機から,書記官が元の読みにくい記録に戻すことも大いにありえます。しかし,それではそれまでの作業のエネルギーが水の泡になります。他方,私の仕業なのに,書記官の人が査閲官に責められては気の毒です。

 こういう物理的作業だけで,数か月かかってしまいます。他の事件を片付けながら,暇を見つけ,暇を見つけてやるわけですから。
 そして,読みやすくした(と言っても,普通に連続して読めるようにしただけですが)後,記録を子細,かつ,一気に読み,判決に不足なところ,その事件の場合には,「訴訟物が特定していません。このままですと,七,八年かかった事件ですが,訴却下にせざるをえません。」などと告げて,これらが揃ってからようやく判決起案にかかれるというわけです。(「この頁の目次」に戻る

 4 ヒラサメの罵倒

 そういう経緯がありますので,「未済が多いなぁ。もっとドカッと片付けられないのかよ。」と怒鳴る所長に「前任者,前々任者の残した7年物の長期未済は片付けましたよ」などと反論・説明します。
 あたりまえでしょう。そもそも,こちらは前任庁では7年物など残さずにまじめに処理してきています。前任や前々任がそんな物を残したということは,そいつらが,こちらはまじめにやっていた時にサボっていたということです。更に言えば,そのサボりを当の所長自身が見逃していたということでしょう。ケシカランのは一体全体誰でしょうか。
実に妙な言いがかりです。
 それを処理したということは,他人のサボりの,更には所長の監督責任懈怠の尻ぬぐいをしたということです。
また,上のようなありさまの記録です。控訴がありました。したがって,所長も記録送付時に決済印を押しているはずです。
 「お前がボヤボヤしているから,あんな事件を片付けないまま転勤していったんだろう。お前,去年の所長面接できちんと言ったのか。『この事件だけは片付けて下さいよ』などと。お前,あの記録,全然読んでいないんじゃないのか。何言ってんだよ」
 誰だってこう啖呵切りたいのが本音でしょう。

 ところが,冷静に上のように反論・説明すると,「そんなのあたりめぇじゃねぇか」と更に怒鳴って来ました。

 上のような面倒な作業を経て判決を書くのが「あたりめぇ」なら,そんなこと何もせずに異動した前々任者や前任者は,「下」とか「下の下」の裁判官になりませんか。そういう待遇を受けていますか。
これが,驚くことに,あるいは,もちろん,違います。御栄転です。
7年物を残そうが,何をしようが,人によっては異動先には関係しない,そんな人々は,もちろん,片付けないでしょう。他方,ムキになって7年物を片付けると,激しく怒鳴られます。
 実に不思議な世界です。
 所長の形相は激しくなっていましたが,私は,その頭の構造の不思議さや反省のなさにあきれ,苦笑してしまい,それを見て形相は更に激化したようでした。

 裁判官を称して「ヒラメ」という言葉があります。本当は違います。正確には「ヒラサメ」というべきです。上から見ると「ヒラメ」下から見ると「サメ」という特殊,そして,かなり原始的な魚類です。
 上へヒラメとしてふるまって溜まった鬱屈を,下にはサメとしてふるまって晴らしたくなるのでしょう。(「この頁の目次」に戻る

 5 悲劇を契機にようやく変わる

 その後,某地裁支部の支部長が,審理期間短縮競争に焦ったのでしょう。当事者に和解を強力に働きかけていたところ,これに不満を募らせた一方当事者が,抗議のため,その支部前庭でガソリンをかぶって焼身自殺するという悲劇的事態が発生しました。
 その事件を契機にしてか,ようやく民事の統計から平均審理期間の欄がなくなりました。なぜなくすのかの説明などありませんでした。
 人が死ななければ変わらない,とんでもないことです。
 これなどは,究極の責任者がきちんと謝罪声明などを出すべき事態です。
 
 ところが,他方,そのころ,性懲りもなく,実は,人事訴訟を家庭裁判所に移管するにつき,その審理期間の統計を取る方針が,定められていたようでした。

 「所長面接」は直ちに廃止するか,所長達が実際どんな風に使っているかを実態調査しないと,いずれとんでもないことが起きるでしょう。(「この頁の目次」に戻る

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