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Ichiefjudge

ある部総括のこと

 少年事件と成年後見事件

 ある家裁で少年事件を担当することになりました。
 その家裁では,前年の少年新受事件数が少なかったためか,それとも,人訴の家裁移管に伴って始まった人訴審理期間短縮競争で所長が他の裁判所に後れを取りたくないというメンツのためか,人訴担当の家事部裁判官二人が担当していた管内全部の成年後見事件が,半年前から少年部の右陪席裁判官(※)の担当に変わっていました。
※ 合議事件で裁判長の右手側に座る裁判官との意味です。以下「右陪席」。同じく左手側に座る裁判官は「左陪席」

 このため,私も,少年事件と管内全部の成年後見事件を担当することになりました。
 後述のとおり,少年部では事件の新受件数・既済件数等の一覧表が部総括を除く他の二人の裁判官には配られない仕組みであったため,だいぶ後になって初めて知ったことですが,少年事件新受件数の減少傾向は,前年の12月で終わり,その年の1月受理分の身柄は前年比ほぼ2倍と急増し始めていました(最終的には,身柄事件が前年比123件増〔488件から611件へ〕でした。その推測される原因等については,後に触れます)。
 所長は,それを知ってて危惧したのか,成年後見事件は「判子押すだけで良いから」と言っていました。

 ただ,元来家事部が処理すべき成年後見事件を少年部に回し,一方,「成年後見事件は判子を押すだけで」という処理方法は,何重の意味かで誤りです。
第1 「判子押すだけで良い」なら,格別少年部に担当替えする必要はありません。それが適切かどうかはともかく,「成年後見事件に時間が取られて」と言い訳する家事部の二人に,「判子を押すだけにしろ」と言えば済むことでしょう。
 ただ,そう言われても,普通はそうおいそれと従うわけにはいきません。損害賠償・国家賠償事件の被告になりかねないからです。

別のところで書きましたが,貧すれば貪するで,後見人による被後見人財産の侵害が頻発しています。問題事例などとして紹介される中には被害額が億を超えるものもあります。

誰の責任でしょうか。言うまでもありません,裁判官です。書記官も免れないでしょう。一方,所長は? 所長の出る幕はありません。事件を担当していないのですから。

 仮に,損害賠償請求,国家賠償請求が提起され,被告の裁判官が,「所長が『判子押すだけで良いから』とおっしゃったので,記録に判子を押すだけで,中身は一切見てはおりません」と答弁して,「ああ,それなら仕方ないな」と法壇の民事裁判官が思ってくれるでしょうか。
 もっとも,損害賠償は棄却でしょう。公務員が職務上行った行為ですから,しかし,棄却され,それが確定するまでは当事者です。
 一方,裁判官が職務上の何かで訴えられた場合も,最高裁判所からは報告を求める書面が届き,代理人を選任するのかとの問合せ等も来ますが,それ以外のサポートは全く何もありません。これは,ある意味では恐ろしいことです。

 某地裁で暴力団が会社乗っ取りを謀った事件を担当した際,証人のチンピラの証言態度が悪く,監置処分にしました。が,後にチンピラが私を被告として民事訴訟を起こしてきました。経験済みです。
 その訴訟は,転勤間際に起こされました。
 引越し支度とてホームセンターなどに子ども連れで出入りしていたある日,店の出入口でひとりの男に「おや,富永さん,お子さんですか・・・。ヘッヘッヘッ」と声を掛けられながらすれ違ったことがありました。誰かは分かりませんでしたが,裁判傍聴等で顔を知られている場合もあり,黙礼される場合もありましたので,こちらも,「こんにちは」などと声を掛けました。もっとも,話しかけてくる関係者は珍しいし,「ヘッヘッヘッ」という笑いも卑しげで,気味悪かったなと思いながら,荷造りを続けていたところ,ハタッと分かりました。監置処分にしたチンピラでした。
 「娘を見られたか」と青ざめました。しかし,まぁ,数か月で転勤だから何もなかろうと思いました。が,気にはしていました。そうしたところ,ある日,民事訟廷の書記官の人が訴状を持って来ました。ニヤニヤしていたのは,これかと思い当たりました。
 とりあえず,答弁書を書き,送達費用を払って転勤しました。が,3か月後(現在は1か月に短縮されています)に休止満了取下見なし規定の適用があったことを通知されるまでは気になりました。
時と場合によっては,休みを取り,自費で飛行機を使って前任地に行く必要があるからです。

 結局,「判子押すだけで良い」というのは,「判子押して,過失がバレたら,アンタが責任を取るだけで良い」というような意味です。とんでもない話です。

第2 少年事件処理の実情が全然分かっていません。
 少年事件では,いつ,どんな事件が起こるか分かりません。ですから,いつ,どんな事件が起きても対処できるようにしておく必要があります。
 最近,被疑者国選や,告訴した事件の告訴人に対する事情聴取立会で日曜日の警察署に行く機会が増えています。いつもはがらんとした一画に,日曜日は多数の警察官が詰めています。重大事件発生に備えての待機でしょう。立ったり座ったり,接見弁護士の受付などをしています。見方によっては暇そうです。ただ,そういう待機警察官に,「お前達暇そうだからこれやれや」などとルーティンワークを割り当てていたらどうなるか。
 もちろん,事件が発生してサイレンがウーウーなっている時に,何人かが,「今日,当事者を呼んでいますので,それが終わってから・・・」などと間の抜けたことを言わなければならないでしょう。
 したがって,普通,そんな愚かなことはしません。

 もっとも,いつ,どんな事件が起こるか分からないのは,民事でも家事でも刑事でも同じなのではないかという疑問もあるでしょう。
 それは,その通りです。ただ処理に使える時間が違うのです。

 民事家事に,審理期間短縮競争の勝ち負けはあるでしょうが,処理時間の制限はありません。
 刑事は? 勾留されている被告人の身柄拘束期間はなるべく短くしなければなりませんが,更新回数が制限されているわけではありません。

 ところが,少年事件だけは,少年法で制限があるのです。
 観護措置の更新は1回だけ。証人尋問等をする場合には,もう一回可能ですが,少年は自白している場合が多く,その必要は普通ありません。
 したがって,少年事件は,誰が何と言おうと,「28日間1本勝負」,正確には,観護措置満了日の審判では何かと困りますので,二,三日は余裕を見ます。ですから,「25日間一本勝負」です。更に正確には,25日の中には土日が3回は入りますから,19日です。それで終われなければ,観護措置期間満了で身柄を釈放しなければなりません。
 処理時間の観点からは,実は最も過酷なのが少年事件です。

 そういう最も過酷な事件を担当している者に,格別時間制限のない者達が担当している事件を振り替えるなど,愚の骨頂です。違いますか?

 なぜ,そんな愚の骨頂に出るのか? 実際のところ,よくわかりません。
要するに,自分に経験のないことにつき,本当のところはわかり得ないのだというしかないでしょうね。
 「所長」というと,その裁判所の中ですべての事件のやり方等を一番よく知っていて,一番優れた判断をする人というイメージがあります。が,幻想です。所詮やったことのない事件処理の実情は分からないのです。

 家裁の所長なら,地裁の所長と違って仕事しているじゃないか? それはそうですが,いわば「みそっかす」のようなものです。
担当している少年事件は,普通はそれこそ「判子を押すだけの」簡単な在宅事件のみです。
観護措置を執るか否か,執られた少年を少年院に送るか否か,その決定書作成などの複雑困難な(精神的)作業を伴う事件は担当しません。
家事事件も,調停だけです。審判という決定書を書かなければならない事件は担当しません。これは,どこの家裁でもそうです。
 観護措置満了日が迫ってくるのに,調査官の調査票が遅くて慌てるなどの体験もありません。

 お前,そんなこと分かっていたなら,そう言えば良かったじゃないか,ですか?
 私も,某家裁では,超長期未済事件を相当数片付けるに際して,誰がやっても同じような種類の事件処理が邪魔になり,所長に御願いしたことがありました。
その時の所長の反応は,「君は前任者がやれたことを『自分はできない』というのか」とものすごい剣幕で怒鳴ってきました。「前任者がやっていない,やらなかった,やれなかった超長期未済事件処理のために御願いしているのです」と,言ったかもしれませんし,言わなかったかも知れません。忘れました。
 いずれにしても,こういう理不尽な体験はトラウマになります。「こりゃ,何言っても無駄だな」 要するに,やりたくないのです。
 

重大事件突発

 平日は,少年部の部屋で,少年事件を処理しながら,手の空いた時間で後見係の人が持ってくる後見事件も処理する,
 木曜日は,家事部の部屋で,成年後見事件を処理しながら,急ぎの少年事件は持って来てもらって処理し,急がないのは,成年後見事件処理終了後,少年部の部屋に戻ってから処理するという生活になりました。

 家事部では,各裁判官毎の新受・既済・未済の数を列挙した一覧表が配られます。
 ところが,少年部では,配られません。不思議に思い,部総括に聞きました。「少年では,既済・未済の一覧は作っていないのですか」
 応えは,「フ,フン」と鼻で笑い飛ばすようなものでした。取りようによっては,「そんなこと気にするなよ」とも取れるような反応でした。鷹揚なものだと思いました。

 ただ,鷹揚な部総括にも困ったことがいくつかありました。
 ひとつは「一時帰宅」の問題です。
 「一時帰宅」というのは,検察官が身柄付きで事件を家裁に送致してきた少年につき,観護措置を執らずに帰宅させる措置です。検察官が身柄付きで送致してくるにはそれなりの判断があります。罪証隠滅のおそれ,逃亡のおそれ,それと少年鑑別所で資質鑑別する必要があるのではないか等々です。(2010年11月17日未完)
 

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